『真空管ラジオの魅力』

2010-01-08
- お店をはじめたきっかけを教えて下さい。

もともと古い車が好きで自分でも所有していたのですが、ヴィンテージカーのカーオーディオといえばラジオしか付いてなかったんです。あるとき、FMトランスミッターを通してiPodの音楽を車内で聴いたら、その音質の心地良さにびっくりしたんですよ。古いラジオだからこそ表現可能な音の魅力に惹かれたのがすべてのはじまりです。
- FMが受信可能な真空管ラジオを数多く取り揃えていますね。

真空管がラジオから徐々に姿を消えていった1950~60年代は一番ラジオに活気があった頃でした。日本でFM放送がはじまったのは、海外より少し遅れた1961年のこと。じつはAMより音質が優れるFMを、真空管ラジオで聞く時代がほとんどなかったんですね。僕の心が記憶した真空管ラジオの素晴らしさを、音を通じて伝えられたら、と思っています。秋葉原に行っても、その魅力を表現できる設備や環境はあまり整っていませんから。
- 古いラジオでも、メーカーによって音質の違いはありますか?

ラジオの歴史を紐解くと、大国はドイツをはじめとした欧州諸国です。もちろんアメリカでもありますが、両国のラジオに対する価値観がまるで違います。欧州では音楽を聞くための道具であって、現代でいうオーディオ的な役割を担ってきましたから、音へのこだわりが強いんです。一方でアメリカは情報取得のためのツール。一家に一台というより、一部屋に一台というスタイルだったから、コンパクト性が重視されていました。日本はアメリカの影響を受けていましたから、僕が子どもの頃に家で聴いていた「ナショナル」の真空管ラジオも小さなものでした。
- 石井さんがお好きなラジオは何ですか?

デンマークブランドの「バング&オルフセン」ですね。現存する最古のラジオメーカーであるここは、音を徹底的に追求した企業だと思います。お国柄なのか、ドイツメーカーのラジオは音の聞こえ方が直接的で、デンマークメーカーのそれは間接的なんです。だから「バング&オルフセン」の魅力は、空間に馴染むところ。本を読んだり、作業をしながら聞くにはぴったりなんですよ。部屋にラジオを構えて、自分なりの特等席で好きな音楽を聞き浸りたいなら、ドイツ製が適しています。これは真空管でもトランジスタ(真空管に変わってラジオの主流となった近代の主力素子)でも変わりません。ちなみにこれまで聞いた中では、私的に「SABA」が一番でした。

- ラジオにも個性があり、聞き方も色々ですね。

突き詰めるとラジオはとてもパーソナルな存在です。一人で深夜にゆっくりと寛ぎながらとか、シーンを問わずとか、それぞれラジオや音楽を聞きたいシーンがあるので、ご来店されるお客様にはライフスタイルをじっくり聞いた上での提案をさせて頂いています。最近は、古いラジオに興味をもつ若い方が増えたなと感じます。CDやiPodの音楽をFMトランスミッターで古い真空管ラジオに飛ばせば、これまで聞いたことのない奥行きのある音色が、きっと心を癒してくれますよ。
便利で新しい音楽ツールが、ヴィンテージラジオの楽しみ方を教えてくれたという石井さん。店内にも、カエターノ・ヴェローゾの歌がまるで肉声のように、心地よく流れていたのが印象的でした。珈琲を啜りながら、真空管ラジオから流れるやさしい音色に聞き惚れる。そんな至福の時間を、自宅のリビングや書斎で味わえたら贅沢ですよね。残念ながら表参道店は2009年をもって営業を終了とのことですが、春に渋谷での新店舗オープンに向けて現在準備中のよう。どうぞお楽しみに。


文・小澤匡行


and up (春にオープン予定)
渋谷区東2-21-2
TEL03-3486-5639
12:00~19:00
月休
http://www.and-up.net/