『ラジオの役割』

2010-03-02
- ご自身でラジオ番組を始めた理由を教えて下さい。

音楽が好きだから、ただそれだけですよ。音楽を人に直接届けるには、放送とかインフラがないと無理ですから。オレは1977年から97年まで、<コム デ ギャルソン>のパリコレクションのショーの音楽を担当していました。だからその度にパリに行っていたんですが、昔はそのままロンドンまで足を伸ばしていたんです。ロンドンの海賊放送(正式な放送免許をもたずに放送を行うこと)がすごく面白くてね。いつ、どの周波数でやっているかわからない放送を探し当てる為に、必死でラジオをチューニングしたりして。あのKISS FMだって、そのときはそうだったたんですよ。それが音楽好きにはたまらなかった。ラジカセを持っていって必死で録音してね。すると日本では聞いたこともない曲が流れていたりして。もちろん、街中のレコード店を廻ってはいたけど、とにかく海賊放送っていう非合法の文化に触れたかったんだよね。それがロンドンに来たって感じがして。アンダーグラウンドな存在が、音楽の文化を育んできたんですから。
- 桑原さんの番組『PIRATE RADIO』は、延々と音楽とトークが続いている印象ですね。

本来、ラジオの役割っていうのは、音楽をノンストップでかけることだと思います。それが小刻みにコマーシャルを放送することで、変わってしまった。ラジオはラジオであるべきだったのに、テレビの真似事をし始めたんですよ。それが今、ラジオが衰退してしまったすべてのスタートだと思っています。
- でも、そのなかでしっかりと編集がなされています。今には珍しく、ある意味ラジオらしくないようにも感じられます。

今のラジオが編集されていないのは、制作費が少ないからですよ。昔は、みんな頑張って編集して、面白い番組を作ろうとしていました。それができなくなったのは、お金がなくなったから。番組を作る上で、一番コストがかからない方法は、手を加えずに流し続けるることです。それでもオレは、自分の番組は自分が気の済むまでやっていいという表現の場だと思っているら、世の中と同じ方法をとるつもりもありません。幸か不幸か、スポンサーもついていないので、好きな音楽を好きなようにかけて、好きなことを喋ってます。『dictionary』(創刊から22年にもなる、クラブキングが発信するフリーペーパーの草分け的存在)だってそう。反社会的で過激なことばかりやっているでしょ? 自分の言いたいことが言えるメディアをもつことは必要なんです。いざってときに自分を表現できる場がないと何もできないから。そして今、オレは好きな音楽や伝えたいことをエンタテインメントで表現しているわけ。クラブでDJしたり、ライブのステージに立つだけが音楽好きってわけじゃないからね。何かの真似をする必要なんてないし、みんながとんでもないことを発信すればいい。ラジオってこういうものだ、って決めつけたらダメなんだよ。そう思った時点で、ラジオが面白くなくなるんだから。
- では今後、ラジオはどうすれば面白くなりますか?

色々なメディアと結びつくことかな。オレは今、Twitterにハマっているんだけど、これは現在の流れのなかで、昔のラジオのように個人と個人を結びつけてくれる。だから面白いんじゃないかな。しかもそれが媒介となってyoutubeや色々なメディアを繋いでいる。今のラジオにはそれがないんだよ。オレだったら、自分の番組が始まる前にTwitterで「今から放送開始」とつぶやいたり、放送された内容の質問にリアルタイムでこたえたり。そういうのって、面白いんじゃないかなって思う。
- たしかに、桑原さんのマニアックなプレイリストをTwitter上で公開してくれたらいいですよね。

これまでは一つのメディアですべてを補おうと、無いものねだりに奔走してきた感があります。でもラジオはラジオの特性をもっと活かすべきで、そのなかで使い方を変えたら良いと思う。例えば「今日はこんな面白いものを買ってきたから、このサイトから買ってよ」って番組で話して、興味のある人はWeb上でそれを購入できるとか。そうすると、セレクトする人のパーソナリティに魅力さえあれば、番組が成立してしまうでしょ。トークが面白くない人はラジオに向いていないとかよく言われるけど、そんな常識すら変わるかもしれない。オレらもまだ実験的だけど、とにかく昔の海賊放送がそうであったように、既存の価値観を壊して、新しい価値を創造していきたいんですよ。その瞬間を近田春夫は"ロック"と言っているんだけどね。
日本にクラブカルチャーやDJ文化が確立されていなかった時代から、非合法でアンダーグラウンドな部分から情報を得てきた桑原さんが監修する『PIRATE RADIO』、まだ聞いたことがないという人は是非、傾聴してみて下さい。きっと、ラジオの在るべき姿が見えてくるはずです。ちなみに、桑原さんはこの30分の番組のために、編集に一週間もの時間を費やすこともあるとか。でも今はそれがこの上なく楽しいようです。


文・小澤匡行


『桑原茂一のPIRATE RADIO』
76.1MHz TOKYO/76.5MHz YOKOHAMA
23:00~23:30
毎週火曜日放送中
http://www.interfm.co.jp/pirate/
クラブキング
http://www.clubking.com